岩木先生とは / Dr.Masaya IWAKI

岩木正哉先生

岩木正哉氏は、理化学研究所入所(昭和51 年)以来、イオン注入技術の基礎から応用に至る先駆者としての業績を積み重ねてきた。

イオン注入技術は、加速器により加速したイオンを固体材料に照射・注入する技術として、現在、半導体製造に不可欠な基盤技術となっているが、岩木氏は、これを広範囲の材料の表層改質に利用する上での、基礎的研究および産業界での応用技術の確立の面で、世界をリードする研究者として活躍を続けてきた。

そのイオン注入による材料の表層改質技術研究は、種々の固体材料に高エネルギーに加速されたイオンを照射した際、どのよう現象が生じるかを探る物理・化学的基礎研究から手がけ、応用面に至る先駆的研究の積み重ねとなった。注入材料は、金属材料から、炭素材料、無機材料、プラスチックに及び、また、改質特性としては、摩擦・磨耗特性、光学的性質、耐食性や化学的反応性の制御、生体適合性に及んでいる。特に近年、鈴木嘉昭先任研究員とともに、フッ素樹脂膜などの医療材料の表層改質を行い、脳外科医療における臨床応用に成功を収めるに至り、その技術はベンチャー企業としても発展途上にある。

学術的成果としては、これまでにおよそ400 編に及ぶ原著論文を発表し、国際学会においても、多数の特別講演や、わが国での開催におけるチェアマンを歴任し、内外の著書も、この分野の主要文献として流布している。それらの特徴は、それまでにイオン注入を行う材料とは思われなかった諸材料、特に、工業材料や医療材料に独創的アイディアと経験により、イオン注入を試行し、ユニークな成果を次々に発表してきたことにある。

理研における業務的業績については、ビーム解析室、基盤技術部表面解析室研究員、同室長、物質基盤研究部長、先端技術開発支援センター長を歴任し、独創的研究と共に、研究支援部門としての技術の向上の原動力となってきた。特に、同センターの設立・運営における功績は大きい。これは、技術が研究を推進する基本との考えと、研究支援は単なるサポートではなく、研究と肩を並べる高技術化が必要であるという、理研における「研究支援」の理念を構築し、実践してきたことになる。

このような「研究支援」の在り方は、多くの人手をもとにした支援技術者の集団を、研究と技術が両輪を成すという理研伝統の考え方に現代性を加味した方策を創造するものであり、産学官の研究部門における研究支援のあり方の先導的理念となるものとしても評価が高い。岩木氏が研究員時代からその実務に携わり、さらに管理職として、この方策を推進してきた実績は特筆に価する。

岩木氏の産業界への貢献も多義に及ぶ。「研究支援」に対する考え方、即ち、「役に立つ技術」の考え方は、理研内に止まらず、わが国に役立つ技術、さらに世界に役立つ技術の確立に目が向けられている。これらの視点から、岩木氏は、理研の特色ある技術を産業界との連携において発展させようという故吉田清太理事の「キャラクタリゼーションセンター構想」を基に、現在の「産業界連携制度」などへとつながる、理研と産業界を結ぶOutputの構築に多くの貢献を成し、理研と親しむ会での技術指導の役割も大きい。また一方、イオン注入表層処理学会やトライボコーティング技術研究会など、産業界からの参加者の多い研究会を推進し、産学官の連携の基礎を築いている。また理研におけるイオン注入技術の研究においては、これまでに産業界からの多数の依託研究生を導入・指導し、派遣先企業におけるイオン注入技術の基盤の醸成に成功を収めている。フッ素樹脂等へのイオン注入による生体適合性の改善は、人工脳硬膜や脳外科における止血膜の実用化を実現し、理研ベンチャー・(株)メディカルイオンテクノロジーの設立を果たしたのも、「役立つ研究」の成果である。Ion Beam Modification of Materials, Surface Modification of Metals by Ion Beams, および Materials Research Society などの国際学会における長年の活躍も目覚しく、学会からの表彰も多い。

これらの技術・研究の業績は産学官に認められ、その結果、多方面の委員会委員、技術指導員、評価委員、賞の選考委員、顧問等を歴任している。文部科学大臣賞選考委員会委員、新技術開発財団・調査選考委員会委員、NEDO 研究評価委員会技術委員、放射線利用振興協会・石川県工業試験場・技術指導研究員、他十数件に及び、大勢に流されない公正な人柄が認められている。

2006 年10 月25 日
高橋勝緒 記


○ご経歴
1947年 4月6日生
1975年 大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了、工学博士
1975年 理化学研究所半導体工学研究室特別研究生
1976年 同 摩擦工学研究室研究員
1980年 同 ビーム解析室研究員
半導体へのイオン注入による研究で工学博士を取得後、イオン注入技術を金属、セラミックス、高分子、炭素材へ応用し、表面の改質研究と解析研究に携わる。表面改質研究においては、産業界と連携し、理研においては基礎研究を推進し、産業界において実用化を図った。
1991年 理化学研究所研究基盤技術部表面解析室長
1999年 同 物質基盤研究部表面解析室長
物質基盤研究部長
2003年 同 先端技術開発支援センター長(2002年より理事長達により発足)
表面解析に関する研究では、理研における表面解析関連共同利用機器の管理運営をリーダーとして行った。また、平成9年より5年間に亘り、科学技術振興調整費知的基盤整備推進制度にて「3次元電子顕微鏡の研究開発」のチームリーダーを務め、本装置の普及に努めていた(文部科学省webより)。

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